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場違いな高級ホテルに突撃
バンコクは刺激的だ。基本的に単独行動だったが、ムエタイ観戦をしたり、屋台で酒を飲んだり、古式マッサージを受けたりと、それなりにひとり旅を楽しんでいた。5日目の朝、飛行機で出会った彼女のホテルを訪ねた。地図を頼りに指定の住所に行ってみると、そこには超豪華ホテルがそびえている。重厚な入り口にはドアマン、ロビーにはグランドピアノ。首まわりがヨレヨレになったTシャツに、迷彩柄の短パン、足元はビーチサンダルという格好の僕は、明らかに場違いだった。恐る恐る金ピカのフロントに近づき、彼女を呼び出してもらおうとするが、カタカナ英語がまったく通じない。緊張していたせいもあるのだろうが、相手に「話を分かろうとする意思」がどの程度あるかによって、言葉の通じ方も変わるのだな…と実感した。最後は筆談をして、何とか要望を伝えることができたが、あいにく彼女は留守とのこと。自分が泊まっている安宿の電話番号を伝えて、すごすごと逃げ帰った。その夜、薄黄色に染まったシーツの上でフテ寝をしていると、思いがけず彼女から電話がかかってきた。「これから、食事でもどう?」。僕はなるべく首まわりがしっかりとしたTシャツに着替えて、安宿を飛び出した。
ホテル前で待ち合わせた彼女は、僕をレストランに連れて行ってくれた。それまで屋台メシを主食にしていた僕は、トムヤムクンに代表される本格的なタイ料理をはじめて食べた。彼女は「タイでは少し奮発するだけで、日本では考えられない贅沢ができるの」と教えてくれた。高級ホテルにエステにレストラン…。タイといえば「貧乏旅行」しか頭になかった僕は、そんな楽しみ方もあるのかと素直に感心した。
食べて、飲んで、会話が弾んだ。ビールを5〜6本も飲むと、気持ちよく酔っ払ってくる。酔い覚ましに、展望台に夜景を観に行くことになった。ショッピングセンターの最上階にある展望台には、受付を通らないと入れないシステムになっていた。酔った勢いで、僕は受付の人に話しかけた。しかし、当然のごとく僕の英語では、まったく通じない。見かねた彼女が、助け舟を出してくれた。僕はぼんやりとした頭で、彼女が英語を喋るときの声はキレイだな…と考えていた。2人並んで夜景を眺めた。不意に彼女が振り向き「明日、帰るの」と呟いた。僕は翌日から熱を出し、出発日まで寝込むはめになった。
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